東京地方裁判所 昭和41年(ワ)269号 判決
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〔判決理由〕三、そこで、被告らの永久使用許諾の抗弁について判断する。
(一) 昭和二九年一〇月二一日富山地方裁判所において、原告らと被告である株式会社ケロリン屋本店、参加人である亀田安平との間に、被告ら主張の調停が成立し、その内容が別紙第四の調停条項のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(二) 被告らは、調停条項第三項但し書及び末尾の「記」の部分によつて原告らは訴外会社らに対して別紙第一及び第二の標章を永久に使用することを許諾したと抗争し、当時富山県下に、「ケロリン」の標章を慣用的に使用している業者が四十数軒あり、たがいに競争相手となつていたので、原告らはこれら業者の標章使用を中止させるため、訴外会社らもその使用を逐次縮少する旨「記」の部分に記載したに過ぎないと主張する。そして、<証拠>によれば、昭和二四年当時富山県下の家庭薬業者で「ケロリン」またはこれに類似の名称で医薬品製造の登録をしていた者が相当の数に上つていたことがうかがえる。しかし、<証拠>によれば、次の事実が認められる。
原告らは「ケロリン」の標章を使用する業者に対して、自己の有する商標を擁護するため積極的に訴訟の提起、警告書の発送、調査等の手段をとつて対策を構じ、その結果昭和二八年頃までに、業者のほとんど全部の者がこの標章の使用をとりやめた。調停成立当時訴外会社らは「ネオケヒリン」の登録商標を有し、これの使用に何ら障害がないにもかかわらずわざわざ「ケロリン」の標章を使用し、また、ネオケヒリンの文字を故意にケロリンの文字に似せた標章を使用していた。そこで、原告らはこれに対する対策の一環として訴外会社らの行為の差止を求めるため訴訟を提起したが、この訴訟が調停手続に移行され、その結果前記の調停として成立した。
してみれば、当時原告らが訴外会社らに対し別紙第一および第二の標章を永久に使用させるべき特段の事情があつたとはみられないから、証人舟橋正一の前記供述部分は措信し難い。また、昭和二九年一一月一日発行の北日本新聞に被告ら主張の広告が掲載されたことは当事者間に争いがないが、この広告の掲載に対して原告らが、訴外会社らに対し、これを調停条項違反行為であるとして直ちに抗議し、調停条項の趣旨どおりの履行を請求していることは被告らの認めるところであるから、前記広告掲載の事実は被告らの主張を裏付けるものとはいい難い。さらに、調停成立と同じ頃原告らが訴外舘井造文に期間一〇年の約で「ケロリン」の標章の使用を許諾した事実も、原告らの認めるところであるが、証人桑島一夫の証言によれば、同訴外人は老令である等直ちに標章の使用を廃止できない事情があつたことが認められ、特段の事情のない訴外会社の場合と同日に談ずることはできない。
(三) 以上認定の各事実と前記調停条項全文を総合すると、調停条項第三項但し書前段は「記」の部分(ハ)項とあいまつて、原告らはその主張のとおり訴外会社らが「ネオケヒリン」標章の使用に移行するまで別紙第一及び第二の標章を暫定的に使用することを許諾したに過ぎず、訴外会社らに対し、相当の準備期間をおいて「ネオケヒリン」標章の使用に移行し、別紙第一および第二の標章の使用を廃止すべき義務を課したものと解するのが相当である。そして、この準備期間は前認定の各事実からして長くとも三年を超えないものと認められ、原告らが昭和四〇年一〇月一日付および同年一一月一日付の書面で、訴外会社らに対し書面到達後二週間以内に前記標章の使用を廃止することを通告し、この書面が同年一〇月二日および一一月一〇日に訴外会社らに到達したことは成立に争いのない甲第七および八号証の各一、二により明らかであるから、訴外会社らに対する原告らの使用許諾は、同年一一月二四日の経過をもつて、その効力を失つたといわなければならない。<中略>
そうすると、被告らがこれらの標章を附した歯痛頭痛薬を販売拡布する行為は、原告らの本件商標権を侵害するものであるから、この行為の差止を求める原告らの請求は理由がある。(古関敏正 水田耕一 牧野利秋)
調停条項
一、参加人、被告は原告等がその製造販売する歯痛、頭痛、粉末薬につき登録番号第三九四七四六号の登録を経て商標「ケロリン」なる商標権を有する事実を認め、原告等は参加人がその化学品、薬剤及び医療補助品につき登録番号第二八五一六五号の登録を経て商標「ネオケヒリン」なる商標権を有する事実を認めること。
二、原告等並に参加人、被告は従来第一項記載の相手方の有する商標に対し、それと同一若しくは類似の標章をその指定商品につき各自が自ら使用し、又は第三者をして使用せしめ得る如何なる権利をも有していないことを確認する。
三、原告等並に参加人、被告は互に相手方が有する第一項の商標及びこれと聯合して現有し又は将来取得する商標と同一若しくは類似の標章をそれぞれの指定商品について自ら使用し得ないこと、及び第三者をして使用せしめ得ないことを確認する。但し原告等は参加人及び被告に対し別紙添付の標章に限り末尾記載(記の部分)の条件を以つて使用することを承諾する、この場合原告等の使用承諾によつて原告等の商標権のほかに別に参加人及び被告にこの標章使用につき固有の権利が生ずるものではないことを、参加人、被告は認諾すること。
四、原告等及び参加人、被告は互に相手方が有する第二項記載の商標に関し将来如何なる異議、請求等をもなさないことを約する。
五、原告等から参加人に対する昭和二十七年審判第二六号商標登録取消審判請求事件及び商標出願公告、昭二九―一六〇〇三号(ケヒリン)並に同昭二九―一六〇〇四号(ネオケヒリン)に対する異議申立はこれを取下げること。
六、原告等その余の請求はこれを抛棄すること。
七、本件訴訟費用及び調停費用は原被告及び参加人の各自弁のこと。
記
(イ)参加人、被告が原告等の許諾によつて製造販売し得る薬品分量は二包入を限度とし其の定価は金弐拾五円を下らざるものとすること。
(ロ)原告等が「ケロリン」の店舗卸に対し多額の広告費等犠牲を払つたものである事実に鑑み、参加人、被告が許諾を得て製造販売する薬品は配置販売卸のみに限り店舗(薬局、薬店)卸は一切これをなさないこと。
(ハ)参加人及び被告は「ケロリン」の使用を逐次縮少して「ネオヒリン」の使用に移行するよう努めること。 以上